雫-シズク-
この人はちょっと悲しそうな顔をしたあとやさしそうににこりと笑った。


僕は少しだけほっとしたけど、そんな気持ちは高木さんの言葉ですぐ消えてしまった。


「それじゃ、早速ですが部屋に案内します」


そう言われたおじさんが軽く頭を下げて、僕の家に来てから一回も見たことのない笑顔で答えた。


「私達はここで失礼しますので、すみませんがあとはよろしくお願いします。圭介、車から降りなさい」


とうとうこの時が来てしまったと思ったら、ぎゅっと心臓をつかまれたみたいに苦しくなった。


こんなのやっぱり嫌だよ。絶対おかしいよ。どうして僕はみんなの言う通りにしなきゃいけないの?


うつむいてくちをかんだまんまで動かない僕に、またおじさんが耳をふさぎたくなるような声で叱り付けてくる。


「早くしなさい!こっちはまだ寺にも行かなきゃならないんだ。いい加減に諦めて車から降りなさい!」


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