雫-シズク-
すぐにおじさんがドアを閉めると、また高木さん達に頭を下げて急いで車に乗る。


待って、もう少しだけでいいから一緒にいさせて!


そう言いたいけどどうしたら声が出るのかわからなくなったみたいに、僕はじっとバックする車を見つめた。


本当に行っちゃうよ……!本当にここに一人で置いていかれるよ……!


うるさいくらい動く心臓が、ぼんっと音を出して胸の中から飛び出てきそうだ。


今までで一番怖いこの大事件をなんとかしたくて、息が上手くできないくらいかさかさになったのどに、ぐっと力を入れた。


「……だ」


桜井さんが青白い顔で苦しそうにはぁはぁしている僕に気付く。


「……や……だ……!」


「圭介くん?」


頭ははっきりしているのに体がしびれてふらふらする僕を無視して、バックした車がちょっとだけ止まってゆっくり前に進み始めた。


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