雫-シズク-
親に捨てられてどうしても生きる意味や価値を見出だせなくて、でもほんの少しでもそれが欲しくてもがいていた。


「葵さんもこんな気持ちだった?……あんな酷い死に方してまで行きたかったそっちは、そんなにいい所なわけ?」


納得できない葵さんの死で感じた憤りの中に、いつの間にか目覚め始めていたある感情。


それをずっと抑え続けてきたけど、今そいつが俺の脳目がけてぞわぞわと虫が這うように背骨を伝いのぼってきている。


「生きるって、なんなんだろうな?」


そう小さく呟いて葵さんが使っていたたんすへゆっくりと近付く。


暗闇に慣れた目で一番下の引き出しを真っすぐ見つめたまま両膝を床につき、なんのためらいもなく手を伸ばした。


長い間開けられていなかった引き出しをなるべく軋ませないよう引っ張ると、ふんわりと葵さんの匂いが漂ってくる。


「ふふっ、懐かしいな。なぁ葵さん、俺も自由になっていいよな?あんたはいいけど俺は駄目って言うのはおかしな話だろ?」


< 263 / 347 >

この作品をシェア

pagetop