雫-シズク-
手探りで衣服の底に押し込まれた白い紙袋を見つけ出し、そのまま自分の椅子に座る。


すぐに机のライトをつけて佐伯葵という文字を少しの間見つめたあと、無言で分厚い紙袋を逆さにした。


大きさも色もまばらな大量の薬の束が、ばさばさと音を立てて広がっていく。


……これは葵さんが死ぬ時に選ばなかった薬達。


小さな頃からそのありかを知っていた俺は、葵さんの死後気になってたんすを調べたことがあった。


その時隠されたままになっていたこの束を見つけて、葵さんも俺を誘っているのかと戸惑ったのを覚えている。


でも憎い親と同じ死に方だけはしたくないと酷く複雑な気持ちにもなった。


時には甘く誘惑され、時には嫌悪感を抱き、繰り返し俺を悩ませてきたこの錠剤。


どんな作用があるのか知りもしないけど、自殺を遂げた葵さんの残した物なら間違いなく逝けるという確信だけはあった。


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