雫-シズク-
そうしている間にも胃の中の様々な薬物がじわりじわりと溶け出して、俺の意識を今にもさえぎろうとしている。


ほとんど感覚のなくなった手を更に強く握って、葵さんの残した文字をぐしゃぐしゃに潰してやろうと無理に力を加えたけど、小刻みにぶるぶると腕が痙攣しただけだった。


「くそっ……!」


今すぐこの紙を思い切り壁に投げ付けてやりたいのに思うように動かない体、そして穏やかなままじゃ死なせてくれない葵さん。


ついさっきまでとはまるで違って、死の直前に悔しさが込み上げているこの状況にぎりぎりと歯を軋ませる。


「なにが死ぬなだ……!ふざけんな……!」


俺は怒りを体中から噴き出させ、何度もちくしょうと呟きながら意識を失っていった。


今日まで憎悪ばかりの悲しい人生だったから、せめて最後くらい安らかに逝きたかったと胸の奥底で悔やみながら。




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