雫-シズク-
そうだ、ガキの頃夢で見た。お前は捨てられたんだって何度も俺に言いながら嘲笑ってるお前らを。


俺は今にも震え出しそうな足に力を入れて、やっぱり地獄に来たんだと心の中で悟った。


そして恐怖に飲み込まれないよう拳を握りしめ、暗闇に浮かび上がる吊られた人影をじろりと見据える。


よく見るとその下にもう一つ不気味な影がぐねぐねとうごめいていた。


俺はもうガキじゃない。俺をこんな地獄に突き落としたこいつらに、これ以上好き勝手に笑われてたまるか。


はち切れそうな憎しみが胸に渦巻き、目の奥に狂気をにじませ一歩、また一歩とゆっくり自分から近付いていく。


お前らのせいで全部めちゃくちゃになったんだ。ここより酷い地獄に落ちたってかまわない。二人とも八つ裂きにしてやる……!


徐々に早くなる歩調、激しく乱れた鼓動、小刻みな浅く短い呼吸、血走った眼球。


俺は長年溜め込んできた感情をぶちまけようと、その二つの影の前に立ちはだかった。


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