雫-シズク-
そんな考えが俺の足を自然と止めた。


少し相手の出方を見るつもりで目をこらすと、床に這ったまま頭を挟むようにこっちに向けて両腕を上げているのがわかった。


……腕なんか上げてなんのつもりだよ?


次の行動が読み取れなくて顔をしかめた時、ふとさっき天井から落として動かなくなった方の影にも妙な気配を感じた。


視線だけを動かしてじっと横たわっていたはずのそれを見ると、二本の棒のような腕がふらふらと天井に向かって伸びている。


そしてここに来て初めて自分以外の声を聞いた。


「うっうぅ……」


闇の底から響くような低く小さなうめき声が両方の影から発せられている。


こいつらついに笑い始めたかと一気に頭に血が昇り、笑いにその口が醜く引きつる前に一刻でも早く塞いでやろうと心が駆り立てられた。


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