雫-シズク-
「泣いてないで今すぐ笑えよ!俺に復讐させろよ!くそっ、泣こうがわめこうがもう関係ねぇからな!」


悲惨だった自分の人生ごと吹き飛ばすようにそう叫んで、片方の人影にまたがり乱暴に胸倉を掴む。


握った拳を勢いよく振り上げて、やっと思う存分殴り付けられるその顔を見下ろすと、闇の中から微かに表情が見て取れた。


その時、俺の全身がびたりと止まる。


「……圭介、……生きてくれ」


そう呟きぐしゃぐしゃに顔を歪めて涙を流し続けるそれは、紛れも無く親父そのものだった。


「……親、父」


こけた頬、少し彫りの深い目鼻立ち、聞き慣れていたはずの低い声。


目を細めあごを震わせながら、上げたまま固まっている俺の拳に親父がすがり付くように両手を伸ばしてきた。


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