雫-シズク-
その手を振りほどくことができなくて、俺の拳は親父の両手にぐいっと包まれた。


「けい……、圭介ぇ、生きろぉ。生きてくれぇ」


鳴咽交じりの必死の訴えを息をするのも忘れてただ見下ろすことしかできない。


「親父、やめろ……。やめてくれ……」


「圭介……」


背後から聞こえた小さな声に振り返ると、もう一つの影がいつの間にかすぐ近くまで爪を立てて這いずってきていた。


その顔もまた親父と同じく歪んでいたけど、ガキの頃悪夢にうなされた俺を優しく見守ったお袋そのものだった。


「お、お袋」


馬乗りにしている親父には手を掴まれ、じりじりと近付いてきたお袋には足にしがみつかれ、体の自由を奪われる。


心臓だけが爆発しそうな勢いで鼓動する中、放心状態でひたすら泣きじゃくる親父とお袋を交互に見つめた。


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