雫-シズク-
そう気付いて俺が微かに頷くと、今度は頭の上の方から男の声が聞こえてきた。


「浅野さん、胃洗浄しますよ」


そのあっさりとした言葉がきっかけで仰向けの体が横向きに変わる。


そして腕や足を数人の看護師に強く押さえ付けられると、今俺に声をかけたと思われる男の医者がすっと目の前に現れた。


何事だろうと考えるひまもないうちに、ぐうっと息が詰まりわけがわからなくて体を強張らせる。


「しっかり押さえて」


感情のない声でそう看護師に指示した医者は、容赦なく俺の喉にぐいぐいと太いなにかを入れてきた。


突然のことにパニックになって、必死に異物を振り払おうと全身を使ってもがく。


でも思うように力が入らないことと押さえ付けられていることで、げぇげぇと汚い音を出すしかなかった。


目も開けていられないほどの苦痛に顔を歪めながら、この状況が一体なんなのかを必死に理解しようと試みる。


すると自分の喉にホースのような太い管が押し込められているということだけはわかった。


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