雫-シズク-
点滴をうけていた俺の病室から学園に戻った桜井さんは、なかなか首を縦に振らない高木さんを納得させるのに、かなり時間をかけて話し合ってくれたらしい。


その夜には退院できた俺もふらつく体で謝りに行ったけど、高木さんに露骨に苦々しい顔を向けられ内心無理かと諦めかけた。


でも桜井さんのあまりの必死さになにかを感じたのか、二度と問題を起こさないことと、もしなにか些細なことでも問題行動があったらすぐ他の施設に移動することを条件に、最後は俺を受け入れてくれた。


途中桜井さんには悪いけど何度も腹の中で舌を出していた俺は、しぶしぶ頷く高木さんに一言だけ礼を言うとそそくさと部屋に戻った。


正直、高木さんへの感謝の気持ちはほとんどない。


今回熱心に話を進めてくれた桜井さんにだって、心から感謝しているわけじゃないのが本心だから。


多分いつもと様子の違う桜井さんを間近で見て、嬉しいというよりも戸惑うことの方が大きかったせいかもしれない。


それからずいぶん体調も良くなって今日やっと新聞配達のバイトを再開することになった俺は、着替えを終えて静かに学園をあとにした。


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