雫-シズク-
「……おはようございます。迷惑かけてすみませんでした」


真夜中だというのにじっとりとした店内には、古びた扇風機が一つだけ無意味に耳障りな音を立てている。


俺は暗い街にぽつんと浮かぶように電気のともった店の中で、慣れた手つきでチラシを折り込む大宮さんに頭を下げた。


大宮さんの横顔は普段と変わらず穏やかな雰囲気を出している。


「おはようさん。体はもう大丈夫かい?」


俺の方に顔を向けてにこりと目尻にしわを寄せながら、器用にチラシをたぐっている。


なんとなく気まずくて動き続けるその痩せた手を見た。


「はい、もう大丈夫です」


その言葉に一度小さく頷くと、俺が謝らなければならない出来事なんかなにもなかったように、大宮さんはまた積まれた新聞へと視線を落とした。


そして俺もおずおずと大宮さんの隣に立って、ぎこちなくチラシへ手を伸ばし作業を始めた。


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