雫-シズク-
いつもはこのまま会話らしい会話もなく作業を終えて配達に出ていたけど、今日はどうしても聞きたいことがある。


俺は気付かれないように深く息を吸い込んで、一定のリズムで動く大宮さんを横目に口を開いた。


「……あの、園長に電話をくれたそうですけど、どうしてですか?寝坊した時はいつもそのままだったんで、ずっと気になってて……」


めったに自分から話しかけないせいもあって少しそわそわしながら聞くと、大宮さんの手が一瞬だけぴくんと止まりまた流れるように動き出した。


少しの沈黙のあと大宮さんが小さなため息をつく。


「……実はね、息子がいてね。一人息子だったんだけれど、ずいぶん昔に自殺しちゃってね。……目が、似ていたんだよ。最近のお前さんの目があの頃の息子にね」


そう途切れ途切れに言って俺に笑顔を向けたけど、その顔は今にも泣いてしまうんじゃないかと思うくらい悲しそうだった。


初めてそんな大宮さんを見た俺は、なんて言えばいいのかわからなくなり押し黙ってしまった。


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