雫-シズク-
……精神科。


とっくに消えかけていた記憶が、白いもやの中から微かによみがえってくる。


「精神科って、どんな病気だったんですか?」


思わずジーパンのポケットにそっと手を入れて小さな紙切れを握りしめた。


「うつ病だったって聞いたわ。これはお墓で偶然会ったご主人の上司から聞いたから、間違いないと思うの。ハードな仕事をしていたせいかもしれないって、その上司の方も暗い顔をしていて……」


その言葉に俺は心の中でやっぱりそうだったんだと呟いた。


自然と握った拳に力が入る。


葵さんの残した薬が気になり、なんとなく調べ始めた時にひっかかったうつ病という病気。


それは頭のどこかに残っていた自分でも気付かないくらい僅かな記憶からきていたんだ。


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