雫-シズク-
俺はガキの頃に聞いた意味もわからないその言葉をずっと忘れなかったっていうわけか。


……いや、もしかしたら忘れられなかったのかもしれない。


子供のくせに親の自殺の原因だと無意識に理解していたのかも。


一番知りたかったことをおばさんから聞けて、ゆっくりと細く長いため息をついた。


俺が思いきっておばさんの家に来た理由は、自分がどうして「うつ病」という知らないはずの言葉に反応したかだったから。


ここに来ればなにかわかる気がしていた。


そして少しずつ頭の中を整理していた時、急におばさんがまた泣き出してしまった。


「もし私がなんとか話だけでも聞けていたならって思うと……。なにもできないうちに二人とも死んでしまって、とても悔やんだけれどもう遅かった。
圭介くんを施設に入れるって話もどうしようもなくて、ずっと一人ぼっちになってしまったあなたがどうしているかばかり考えて……」


そう言ってぐっと俯いたから表情は見えないけど、涙だけが次々とおばさんの足に向かって落ちていく。


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