雫-シズク-
「今日はいろいろありがとうございました」


そう言って玄関でくつをはいたあと、振り返っておばさんに軽く頭を下げる。


「またいつでも来てちょうだいね。……あ、圭介くん」


名残惜しそうな顔をしていたおばさんが、思い出したように呼びかけてきた。


「二人のお墓にはもう行った?あの一番大きなお寺にあるんだけれど。もしまだなら、……一度顔見せに行ってあげたらどうかしらね?」


俺の気持ちを伺うようにおばさんがこっちを見て、やんわりとすすめてくる。


正直そこまで考えたことのなかった俺は、視線を落として少し困ってしまった。


「……まだそんな気持ちにはなれないけど、いつか行こうと思います」


実際墓に行って手を合わせたって、なんて言えばいいかもわからない。


そんな複雑な表情をした俺を見ておばさんが何度も小さく頷いた。


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