雫-シズク-
「毎年うちで行っているし、無理に行かなくてもいいの。それくらいのことは私に任せて、圭介くんは自分のことを考えてね」


やっと涙が乾いたおばさんの目に、またじんわりと透明なものが浮かんでくる。


「年取ったら涙もろくて嫌ね」


そう言って無理に笑おうとするおばさんを真っすぐ見つめた。


「俺、これからちゃんと頑張ります。だから俺のことは心配しないで下さい。おばさんももう自分を責めないで、おじさんとずっと元気でいて下さい」


するとその作りかけていた笑顔が崩れ、代わりにはらはらと涙が落ち始めた。


俺が来てからずっと泣いているおばさんに胸が痛んだけど、今日ここで話せたことに後悔はない。


そして俺はまた遊びに来ると約束しておばさんの家を出た。


曇り空の夕方はいつもより暗くなるのが早く、まだ街灯のともらない目の前の薄ぼんやりした道路に一歩足を踏み入れる。


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