雫-シズク-
なんとなくジーパンのポケットに両手を突っ込んだあと、ちらりと隣の家を見上げた。


おばさんから聞いたけど、その家は俺を施設まで送ったおじさんの知り合いの不動産屋に引き渡されたらしい。


人が二人も死んだ場所で買い手もつかないだろうし、建物を取り壊すにも金がかかる。


おばさんが何度か人が来て中の物を整理していたと言っていたけど、結局そのあとは放置されているようだ。


……その家に、今俺が欲しいものはなに一つない。


いっそのこと全部壊れてなくなった方がすっきりできるのに。


あまり長く見つめているとまた体が拒否し始めそうで、意識的に視線を外して前を向いた。


そして俺は暗くなる前に急いでそこに帰った昔の笑顔の自分とは逆に、薄暗い道を淡々と歩き始めた。




< 324 / 347 >

この作品をシェア

pagetop