雫-シズク-
紅炎。
「お前が医者に?あはははっ、なんの冗談だ?」


放課後の職員室で担任の青木の笑い声が響いた。


「……冗談じゃないんですけど」


厚手のジャンバーを着込んだ俺は、ちゃんと話を聞いてくれない青木の前にむっとした顔で立っている。


「ここの学生の偏差値は知っているか?そもそも大学に進学できるようなもんじゃないんだぞ?浅野、お前もそうだ。いきなり来てなにかと思えば、あんまり驚かせないでくれよ」


呆れながらもう行けと言う代わりに、脂肪の付いた青木の手がひらひらと振られている。


「……とりあえず俺の偏差値に関係なく、どうしたら医者になれるかだけでも教えて下さい」


それでもしつこく質問する俺を椅子から斜めに見上げて、青木がふーんと言いながら腕を組んだ。


「お前の場合、国公立大学の医学部しかないだろうな。しかし頼る親もいないのに金はどうする?それにあと2年あっても、国公立となるとかなり難しいぞ?まぁ不可能だとは言い切れないが、もっと身の丈に合った進路を探したらどうだ?」


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