雫-シズク-
青木が渋い表情で無理だから諦めろという雰囲気を顔中から出している。


「……もういいです」


ちゃんと話を聞いてもらえないとわかった俺は、それだけ伝えて職員室のドアを開けた。


そしてコートやマフラーで防寒する学生や、部活に出る学生ががやがやと入り乱れる玄関に向かう。


……国公立の医学部か。


冷たい風がびゅうっと吹き抜けてジャンバーのえり元をぎゅっと掴んだ。


俺には塾や予備校に通う金もないし、もし受かっても高校を卒業したら学園を出なきゃいけないから住む場所もない。それに学費だってかかるんだよな。


今日やっと勇気を出して担任に相談したけど、逆に途方に暮れてしまうような現実にため息をつく。


おばさんの家に行ってから俺はずっと自分のこれからを考え続けてきた。


うつ病だった親父とお袋の自殺、葵さんの自殺、そして残された人間の苦しみ。


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