雫-シズク-
苦労してきたんだろうと想像のつく深いしわを目尻に寄せて、大宮さんが穏やかに微笑んだ。


「そうですか……」


息子さんや奥さんと死別しても頑張ってここまでやってきたんだろうな。悲しくて淋しくて心細くて、きっと大変だったはずなのに。


そんな大宮さんを見ると自分も前に進まなきゃいけないと思えた。


「あと二年、俺も頑張ります」


その言葉を聞いた大宮さんが嬉しそうに頷くのを見ながら、俺はお茶のお礼を言って店を出た。


まだ明けない暗い道で冷たい向かい風が伸びた前髪をあおってくる。


学園にむかう俺は肩をすぼませて今自分にできることを考えた。


担任に無理だって言われても、とりあえず勉強しよう。そして少しずつ結果を出してからもう一度相談してみよう。金とか他のことはそれからだ。


何度も諦めた方がいいかもしれないと思い詰めさせられた新しい未来は、しぼむどころか限界のない風船みたいに俺の中で膨らみ続けていた。




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