雫-シズク-
「受験生や浪人生の全てが通っているわけじゃないよ。中には必要な講習だけとか模試だけ、あとは様々な事情があってお前みたいに独学でって人間もいる」


……どこかに俺みたいに一人でやっている奴がいるのか。それで医者になった奴だって、きっと。


菅野の言葉に勇気をもらった気がして、俺はそっと両手の拳を強く握った。


「まぁ両方リスクがないわけじゃないけどな。模試なら全国的に見た自分の位置はある程度わかるが、偏差値に振り回される可能性がある。参考書類ならしっかり見極めて買わなきゃならない」


菅野が手に持っていた俺のデータらしい紙をぱさりと机の上に置く。


「金のかかることだが、受験が国立の医大ともなると今よりなにかプラスアルファが必要だ。どっちもというのが無理なら片方だけでもどうだ?自分で選べるか?」


顔を上げてぴくりとも動かず話を聞いていた俺の瞳を見て、ずっと真顔だった菅野が笑顔を見せた。


「お前なら大丈夫そうだな。三年になったら担任じゃなくなるかもしれないけど、もし誰もお前の将来を考えてくれなかったら相談しに来い。……大きな声じゃ言えないが、ここは勉強にうるさい教師も少ないしな」


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