雫-シズク-
最後の方はまわりに聞こえないよう声をひそめながら苦笑いしている。


「はい、よろしくお願いします」


内心では話してよかったと喜んでいるものの、なかなかそれを表現できずに無表情のまま軽く菅野に頭をさげ職員室を出た。


腕時計を見るともうすぐ昼休みが終わる時間だ。


でも廊下や校庭には教室に戻ろうとしない生徒達がだらだらとかたまっている。


何気なく見渡すとつまらなさそうに携帯をいじっている奴らや手を叩いて大笑いしている奴ら、あとは鏡を睨んで必死に化粧をしている奴ら。


……お前らの夢はなんだ?あるのか?ないのか?


思わず自問したけど、そんなことはどうだっていいんだとすぐに頭を切り替える。


よし、まずは金を貯めよう。


とにかく俺は実現できるかわからないほど高すぎる自分の目標を菅野に否定されなかったことが、正直とても嬉しかった。


無駄な努力じゃないと背中を押された気がして、悔いのないよう一分一秒も無駄にしないで前に進もうとあらためて強い気持ちを胸に宿す。


そしてその先にあるはずの自分の価値をこの目で確かめるんだと、心の中の希望に紅い炎を静かにともした。


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