雫-シズク-
あの高木の嫌味な表情と強制的な口調、それに耳障りな声を思い出すと腹が立つ以上に笑えてくる。


微かにもれる嘲るような笑い声を我慢していると、不意に酸っぱい胃液が込み上げてきた。


……やばいっ。吐くっ。


そう思ったのと同時に俺は慌てて部屋を飛び出して真っ暗な階段を駆け降りた。


ぶるぶると震える口元を強く押さえながら、誰もいない食堂を横切って闇に紛れたトイレにたどり着く。


「ううげほっ、ぐはあっ、かはっ!」


電気をつける暇もなく、便器に伸ばした両手で体を支えてさっき飲んだばかりの水を吐き出した。


酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す口からだらだらと流れ落ちた液体が、開けっ放しのドアの向こうから注がれる青白い月明かりにきらきらと照らされている。


……今日、三回目か。


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