雫-シズク-
僕はもうお母さんに会えないのかな?さわれないのかな?ぎゅってできないのかな?


心の中に知りたいことがどんどん広がって、苦しくて口を開けたら声が出た。


「おかぁ……さん……」


大きい涙がぽとぽと音を出して落ちていく。


僕の小さな声でこっちを向いた桜井さんが、こぼれる涙を見て少し悲しそうな顔をした。


「思い出しちゃったかな?私が圭介くんのお母さんじゃなくてごめんね……」


涙が止まらなくて目がこわれたんじゃないかって思った僕は、どうにかしようと何回も手で顔をこすりながら、こくんとうなずいた。


お母さんじゃないことはわかってる。わかってるよ、……でも。


僕はただね、抱きしめて欲しかったんだ。


こんなにつらい僕を守ってくれるあったかい腕が欲しかったんだ。


それだけだったんだ。




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