雫-シズク-
そして僕は3人で手をついで歩いた時の固くて大きなお父さんの手と、やわらかいお母さんの手を思い出した。


夢の中に逃げるためにきつくつぶった目からいつまでもぽろぽろ涙を流し続けて、やっとうとうと眠り始める。


僕は、そんな毎日を生きていた。




僕が学園に来てから10日くらい過ぎたある日、桜井さんが夜の自習時間に僕の部屋に来た。


「圭介くん、ちょっといいかな?」


「……はい」


机で勉強していた僕は、ぎぎっと鳴る椅子から桜井さんの方を見る。


「明日、入院中のこの部屋のお兄さんが退院することになったの。予定より少し早まったんだって。よかったね、一人で淋しかったでしょ」


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