雫-シズク-
おろおろとしながらバスルームを覗くと、少年は母親の傍らでその冷たい背中をさすっていた。


「お母さん、もうすぐ痛くなくなるよ。お医者さんとこ行くから大丈夫だよ」


自分の体が血だらけなのにも気付かずに、目に一杯涙を溜めながら呪文のように一生懸命「大丈夫」を繰り返している少年。


「こんな小さな子供に、どうしてこんな酷いことを……!」


自分でも耐え難い程の残酷な光景を与え、守るべきはずの少年を置き去りにした二人に美江子は憤りすら感じた。




--遠くから響き始めた救急車のサイレンの音が、平穏だった町並みを一瞬で騒然とした雰囲気へと塗り替えていくまでにそう時間はかからなかった。




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