雫-シズク-
「あの、ここらへんで子供を預けられる施設ってありませんか?」


一瞬顔色を変え親類らしきその男の方に向き直った美江子が、ちらりと圭介を見て答える。


「そういうお話は、全て終わってからじゃいけませんか?」


「いえね、みんな地方だし預かるって言ってもいろいろ大変だし……、ねぇ?葬儀が終わってすぐ行けるようにしておけば、圭介も安心じゃないですか」


少年はこれから自分の身に起こるだろう出来事を全く知らずに両親に寄り添っている。


「……わかりました」


昔福祉関係に勤めていた事のある美江子は、居間に戻りなんの力にもなれない自分を悔やみながら、市内の児童養護施設をその男に教えた。


それから少年は父と母の間に用意された自分の布団の上でそれぞれの手を握り、座ったままうとうとと一人眠りこけ夜を明かした。


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