ライアーライフスタイル
「やめてよ。山村さんも、変なこと言わないでください」
ムキになって返した私を二人が笑う。
私はサングラスをかけ直して、極力二人の会話に参加しないよう再び距離を取った。
「樋川さんは、彼氏さんがいらっしゃるんですか?」
「婚約者がいます。でも結婚が決まってからが、うまくいかなくて」
驚いた。
ここで本当のことを言うとは思わなかった。
「式の準備で揉めているとか?」
「そうなんです。よくあることみたいですけど」
あかりがやけに素直だ。
婚約して男性関係を清算したから、この件について男性側の意見を聞ける貴重な機会だと思って真面目に話しているのかもしれない。
私は黙って二人を見守る。
「無責任なことを言いますけど、きっと何とかなりますよ」
「なるかしら。もう結婚自体をやめちゃいたいと思い始めているのに」
「僕の友達も何人か結婚しましたけど、みんな口を揃えて披露宴の準備段階で結婚自体をやめたくなったと言ってました。でもダメになったやつはいません。乗り越えて、より絆が深まる……というか、準備自体が夫婦最初の試練なのかもしれませんね」
山村の話に、私の胸が勝手に熱くなる。
話自体は、どこかで聞いたことのあるありきたりないい話だ。
でも“あの山村が私の親友の幸せを願って話している”という事実が、得体の知れない感動を引き起こしている。