ライアーライフスタイル
「相手のためを思って騙すという方法もあるんですね」
「それ、嫌味?」
「違います。褒めてるんですよ」
「そうは聞こえないけど」
頬に流れた涙を拭うため、山村に背を向けサングラスを外し、手の甲で流れた涙を擦る。
しかし新たに溢れるため、なかなか頬が乾かない。
鼻をすすり、手の甲で涙を拭い続ける。
この男にこんな姿は見せたくないが、もうどう頑張ったところで格好はつかない。
「弦川さん」
せっかく背を向けていたのに、山村が私の正面へやって来た。
ただでさえスッピンで、さらに泣き顔なんて見られたくなかったのに。
彼は切なげに眉を寄せ、持っているタオルで私の濡れた手の甲を拭いた。
距離にして30センチ。
満員電車に乗り合わせて以来の距離感だ。
不覚にもドキッと胸を高鳴らせた次の瞬間、山村は落ち着いた声で告げた。
「思い出した」
至近距離で放たれた言葉は、クリアな音質で私の耳に届く。
「何を?」なんて、彼の表情を見れば尋ねる必要もなかった。
「やっと思い出したよ。あんたのこと」