ライアーライフスタイル

「つる子!」

山村は私を見て恥じるような顔をした。

誰にも内緒で練習したかったのだろう。

私は途端に申し訳ない気持ちになった。

「ごめんね。邪魔しちゃったね」

緊張のせいで口が震えて、やけに早口になった。

「いや、別に……」

せっかく山村と二人きりだけれど、気まずい空気に耐えられず、私は急いで自分のロッカーへと向かい、体操着を入れた巾着を掴み取る。

たかだか十数秒。

けれど、しんとしている教室では間が持たず、私は言葉を発した。

「偉いね、練習してるんだ」

「うん。俺、苦手だからさ」

山村のリコーダーが下手であることは周知の事実。

ヒョロヒョロと情けない音しか出せず、指が追いつかず遅れてしまう。

でもそこが可愛いと評判だ。

「つる子はリコーダー上手いよな」

「え? そうかな」

確かに私はリコーダーが得意だったが、それを彼が認識していることに驚きと嬉しさを覚える。

山村が私を見てくれていたのだと、舞い上がった。

< 151 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop