ライアーライフスタイル
「遅いお帰りですね。俺が御社に伺った時には、もう退勤されているみたいでしたけど」
山村は残念そうにそう告げた。
私に会いたかった、みたいに言うのはやめてほしい。
そもそも私が仕事の後に何をしようが、山村には関係ない。
「今日はデートだったんです」
「……そうですか」
彼がちょっとイラっとしたのが伝わる。
私が誰とデートしようが、山村には関係ない。
というか。
「あなたとは本当によくお会いしますね。偶然にしては頻繁すぎて、ちょっと怖いくらい」
私がそう言うと、彼は面白がるように口角を上げた。
「今日に関しては、偶然ってわけでもないんです」
「どういうこと?」
「ここにいたら、弦川さんに会えるような気がして」
「待ってたの?」
まさか、山村までストーカーになってしまったのだろうか。
「ええ。といっても、別に何時間もここにいたわけじゃありませんよ。コンビニで買い物して、煙草を一本吸って、このコーヒーがなくなったら帰ろうと思っていたんです。期待はしてたけど、本当に会えるなんて思ってなかったし」
山村はまだ中身が入っているアイスコーヒーのプラカップを横に振って見せ、用済みとばかりに飲み干した。
「会ってどうするつもりだったの?」
「話をするつもりでした」
「どんな話?」
「つる子の話」