ライアーライフスタイル
「それからすぐに親父の転勤が決まって、俺はまた転校して。それ以来、つる子に会うことはなかった」
山村の手が私の腕からそっと離れる。
今なら逃げ出すこともできるけれど、ここで逃げ出したら自分がつる子だと認めるようなものだ。
「話はそれで終わり?」
「つる子って、名前が鶴子なんじゃなくて、弦川という苗字のあだ名だったんですね」
忘れていたというより、当時から私の本名なんかに興味はなかったのだろう。
私は山村由貴という名をハッキリ覚えていたから、腹立たしい。
「違うんじゃないですか? だってつる子なんてあだ名、全然可愛くないじゃない」
「どうしても認めない?」
「私には覚えがないと言ってるの」
山村は諦めるようにため息をついた。
彼はもう確信している。
私が意地になって認めていないだけだということもわかっている。
わかったうえで、私に話を聞かせているのだ。
「俺、もう二度とあんな居た堪れない思いはしたくなくて。あれからはどんなにからかわれたり冷やかされたりしても、自己保身のために他人を犠牲にすることはやめました」