ライアーライフスタイル

「そんなに警戒しないでよ。仕事中にまで口説こうとは思ってないから」

山村は苦笑いしながらそう言って、仕事モードをアピールするように書類や資料が入ったファイルを机に広げた。

「別に警戒なんてしてない。私の仕事をしてるだけよ」

ミーティングルームに二人きり。

新田主任が来るまで、誰の目にも触れない。

ひょっとしてこれって、今までで一番危うい距離感なのでは。

「あのさ、つる子」

「違うってば」

「じゃあ、何て呼べばいい?」

「苗字で呼んでください。さん付けで」

「それじゃあ今までと変わらないだろ」

「変える必要がある?」

「俺が変えたいんだよ」

「私は変えてほしくないんだけど!」

山村が楽しそうにクスクス笑う。

図らずしも彼とテンポのいい掛け合いをしていることに、今さら気づいた。

「そんなに嫌わないでほしいな」

「なっ、別に嫌ってなんか……」

ない、と言いそうになってしまった。

「ない、とは言ってくれないんだ?」

言うわけがない。

あんたなんか嫌いだ。大っ嫌いだ。

意外と狡猾で、からかい上手で、しつこい。

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