ライアーライフスタイル
ありのままの弦川真咲を捨てた時点で、私は一度空っぽになった。
新たな自分の中に積み上げたものなんて取るに足りない。
たった6年分だ。
捨てるのに大した苦労はないだろう。
今のところは本気で転職を考えているわけではないけれど、何にも縛られていない私には多くの選択肢がある。
それは安心のようでもあり、不安のようでもある。
しばらく経って、新田主任と山村がミーティングルームから出てきた。
商談は終わったようだが、商品名を連呼しながら難しい話をしている。
「今日はこれで失礼します」
山村がやや難しい顔で頭を下げた。
「いつも無理を言ってすみません。しかし、御社の利益に貢献できると思いますので、何卒ご検討をよろしくお願いします」
新田主任は、いつも通り自信を感じさせる笑顔だ。
商談はまとまらず、持ち帰りになったらしい。
去り際に、山村とまた目が合った。
山村は仕事モードの顔のまま、私には何も言わずに去っていった。
……別にそれを、物足りなく思ったわけではない。
決して。