ライアーライフスタイル

私は顔の筋肉をフルに使い、無理に笑顔を作った。

「山村さん、もしかしてこの辺りにお住まいなんですか?」

お願いだから、否定してほしい。

一生会いたくなかった男が取引先の担当者になっただけではなく、まさか近所に住んでいるなんていう運命のいたずらが、いくらなんでもあるはずがない。

「ええ。先日越して来たんです。すぐそこに」

私の願いはあえなく砕け散った。

「そうなんですね……」

ああ、全速力で走って逃げ帰りたい。

こんなことになるのなら、コンビニになんて寄らなきゃよかった。

山村が仕事の時と変わらぬ爽やかな笑顔で尋ねる。

「そういえば、まだお名前うかがってませんでしたよね?」

まずい。

名前を聞けば当時の私のことを思い出すかもしれない。

適当に偽名を使おうか。

いや、仕事で関わる限り、そんなことは無意味だ。

ここはもう、覚悟を決めるしか方法がない。

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