ライアーライフスタイル
「申し遅れてすみません」
心臓がいやに強く鼓動する。
背中を嫌な汗が伝って気持ち悪い。
私は短く息を吸い、笑顔を必死にキープする。
「弦川と申します」
女なのに“まさき”という、特徴的な下の名前はあえて名乗らなかった。
どうか苗字だけで満足してほしい……。
山村はにっこりと微笑んだ。
「弦川さんですね。バッチリ覚えました!」
よかった。
下の名までは気にしていなかった。
ホッとして肩の力が抜ける。
不幸中の幸いでしかないけれど、今は彼が当時の私を思い出していなければ御の字だ。
当時の私にはほとんど見せたことのない、好意的な笑顔。
この笑顔こそ、山村が女を見た目で差別し、態度を変えるような男である証拠だ。
私の名前なんて覚えなくていい。
明日には忘れてくれて構わない。