ライアーライフスタイル

私は彼の言葉を冗談にすべく、大げさに笑った。

「あっははは。まさか、そんなはずありませんよ」

「僕の勘違いでしょうか」

「そうですよ。山村さんみたいなカッコイイ方にお会いしていたら、私、忘れたりしませんから」

「おかしいなぁ。僕だって、弦川さんみたいな綺麗な人、絶対に忘れないんですけど」

山村は困ったように笑った。

私たちは初対面ではない。

15年ほど前は、小学校の教室で毎日のように顔を合わせていた。

彼に受けた仕打ちや、それによって私が随分長く苦しめられてきた事実は、今の私の楽しいライアーライフを支えるエネルギーだ。

私を傷つけたことなど、山村はほとんど忘れているだろうけれど、私はしっかり覚えている。

顔は変えられても、名前や声までは変えられない。

彼の閉ざされた記憶をくすぐってしまうのは不可抗力だけれど、私はこれからも嘘をつき続け、真実を隠し続ける。

私の嘘に振り回され、せいぜい思い悩めばいい。

「それじゃあ、山村さん。おやすみなさい」

「おやすみなさい。お気をつけて」

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