ライアーライフスタイル
営業所に戻ったのは午後9時を回った頃だった。
私は本社で名前を記入するだけの辞表を書かされ、私の後釜だという1つ年下の女の子に引き継ぎをした。
その他の手続きも全部済ませて、それから所長の運転する車でここへ戻ってきた。
営業所にはもう誰もいない。
「もうここに来ることはないんですね」
「来てもいいけど、きっと気まずいよ」
所長の容赦ない言葉。
笑って「そうですね」と返せた自分を逞しく思う。
「私、この会社が好きでした。とても楽しかった」
「うん。それは俺も同じだよ」
「堀口さんも、小柳くんも、もちろん新田主任も、他のみんなのことも大好きでした。あ、もちろん所長も」
「はは、ありがとう」
静かなオフィスに私と所長の声が響く。
とても悲しい最終出勤日になってしまった。
「私、所長のこと誤解してました」
「誤解? どんな?」
「所長はおっとりされてるから、所長に向いてないって思ってたんです」
「えー。そんな風に思ってたの。まぁ俺、頼りないもんなぁ。場を仕切るのとか上に報告する文書作るの苦手だし」
仕切りごとはいつも新田主任、報告の文書はいつも私が作っていた。
私がまとめて、所長にはハンコを押すだけで済むように仕上げて、それなのにハンコ押しを怠ってしまうような、そんな所長だった。