ライアーライフスタイル

「イズミの新田さんと言えば。俺らの業界の中では“エグい”って有名なんだよ」

「そうなの?」

「大きな商談を持ち掛けてくるんだけど、メーカーの利益を無視した無理な価格での取引を押し付けてくるし、納期とかロット数とか、とにかく条件が無茶苦茶で」

私はこの営業所にしか勤めたことがなかったし、入社したときから新田主任は稼ぎ頭として今の営業スタイルだったから、それを不思議に思ったことはなかった。

「イズミとの取引は売り上げの要になるから、無茶な要求でも無視できない。でも、その要求を満たすために、俺たちは会社の上の人間を説得して、工場の人間を説得して、原料の仕入れ先にも無理をお願いすることになる。上にも下にも責められて、だんだん会社に居場所がなくなる」

その無理がたたって、高田さんは病に冒された。

新田主任は我が社では優秀な社員だった。

営業成績は常にトップクラスだった。

でも、その裏で苦しんでる人がたくさんいたのだ。

私にはそれが、まったく見えていなかった。

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