ライアーライフスタイル
目的地はマンションを出て数十メートル先のアパート。
到着まで2分もかからない距離である。
チャイムを鳴らすと、数秒後に部屋着姿の男が現れる。
「いらっしゃい」
セットされていない髪型の方が、私は好きだ。
にっこり笑顔の彼に、私は無愛想に応える。
「たまたま暇だったから来ただけだし」
「はいはい」
「だからすぐに帰るかも」
「好きにしていいよ」
こんな風に振る舞っても、彼は決して怒ったりしない。
むしろ少し上機嫌になる、変な奴なのだ。
「ねぇ、ちょっとここに座って」
私が言うと、私のために用意したオレンジジュースのペットボトルを冷蔵庫から持ってきた彼は、「ここでいいの?」と素直に従う。
私が彼の前に腰を下ろし背を預けると、彼は笑って軽口を叩く。
「俺はあんたの座椅子かよ」
「そうだよ」
彼の部屋に来るようになったのはここ1~2週間のことだけど、私の小さな嘘や憎まれ口は全く彼に通用しなくなった。
「ギュッとしてほしいならそう言えばいいのに」
「違うもん。背もたれが欲しかっただけだし」
「はいはい。ほんとに可愛いな」
彼はすぐにそういうことを言うから、私はむず痒い気持ちになってしまう。
でも、悪くない。