ライアーライフスタイル
この男の顔を見るのは、原口との一件以来だ。
会いたくなかったから電車の時間をずらしているし、あのコンビニにもあまり立ち寄らないようにしているが、仕事で会うのは避けようがない。
「いつもお世話になっております。本日はどのようなご用件で? ミーティングルームに予定はありませんでしたが、誰かとアポがありましたでしょうか?」
憎い気持ちを押し殺し、会社の人間として恭しく接する。
山村も同じ気持ちなのか、口角だけが上がっている固い笑顔をしている。
「いえ、アポはありません。今日は今月の請求書をお持ちしただけですので」
「郵送でよろしいんですよ?」
打ち合わせもないのに、わざわざ会社まで来ないでほしい。
こちらは会いたくないし、できるだけ関わりたくないし、顔も見たくないのだ。
「いいえ。きちんと弦川さんに手渡すようにと、前任の高田からも言われておりますので」
「そうでしたか」
私は山村から、請求書入りの封筒を受け取った。
これで用事は終わったはずなのだが、山村は踵を返さない。
「今日はみなさんがお揃いのようですから、ご挨拶させていただきますね」