私の片想い事情 【完】
あの後―――
行く当てもなく、ただ全速力で隼人の家を飛び出した私は、気付くとバスで三駅分程走っていた。
フラフラになり、道路脇のベンチに腰かけたとき、携帯も財布もアパートの鍵も隼人の家に置いてきたことに気付いた。
今更戻れない。
そう、隼人の元にはもう戻れない。
拭っても、拭っても溢れてくる涙に、私はただ茫然とベンチに座っていた。
犬の散歩に通りかかったおばさんに、「どうしたの?」と心配そうに尋ねられ、私は初めて自分の恰好を顧みた。
肩口が大きくあいたよれよれのTシャツに腰骨までずりおちたままのショートパンツ。
髪はボサボサに振り見出し、目には溢れんばかりの涙。
これじゃあ、強姦に合ったと思われても仕方がない。
まあ、似たような目にあったのだけど。
私は「大丈夫です」と小さく答え、衣服の乱れを直し、その場から逃げるように足早に去った。
そして、その足取りのまま、無意識に亜紀さんのマンションの前まで来ていた。
どうして亜紀さんが思いついたのかはわからない。
一人暮らしの友達も近くに何人かいたけど、真っ先に浮かんだのは亜紀さんの顔だった。
亜紀さんに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
そして、「バカ」と怒ってもらいたかったのかも。