私の片想い事情 【完】
「家に帰りたくないならここにいて。お酒飲みたいなら買ってくるから。セックスしたいなら……」
隼人を抱きしめる手に力が入る。
「セックスしたいなら私が相手になるから……」
私の発した言葉に、隼人の身体がビクンと揺れた。
「私で鬱憤はらしていいから、現実から逃げないで」
そう言うと、私の胸に顔を埋めていた隼人が、急に顔を上げた。さっきまで何も写さず冷たく輝いてた瞳に怒りが見える。
「バカヤロウ。みなみ相手にそんなことできるわけねぇだろ?」
「だって……」
「そんなこと二度と言うな」
そう吐き捨てて、隼人は私を振りほどく。
「だったら、どうしたらいいのよ!隼人はどうしたら私たちのところに戻って来てくれるのっ!?」
私は子どもみたいに泣き叫び、隼人の胸を叩いた。
「本当は、すごく傷ついているくせに!本当は、パパさんや静香さんに当たり散らして問い詰めたいくせに!何我慢して逃げてんのよっ!」
「だまれ、みなみ」
「だまらない!隼人がそうやって逃げたいなら、私は……私は、隼人の逃げ場所になってあげるから。こんな色気もくそもない身体で良かったら、いくらでも差し出す。ずっと傍にて離れないっ」
私は、隼人にしがみつき、絶対に離さないと言わんばかりに隼人に抱きついた。
縛ってあったタオルは緩み、もう解けている。隼人が私を突き飛ばせば簡単にここから立ち去ることができる。
でも、隼人は部屋から出て行こうとはしなかった。
顔を歪め葛藤するように、しばらくそのままでいた。私はその間、ずっと大泣きし、隼人にしがみついていた。
今度は、絶対に離さない、そんな気持ちで。
どれくらい時間が経ってからかわからないけど、拒絶するようにだらんと垂れ下がっていた隼人の腕がふと私の背中に回った。
ふう、と自分を落ち着かせるように大きく息を吐くと、まだしゃくり上げていた私の背中を宥めるように撫でてくれた。それがあまりにも気持ち良かったので、私はそのまま泣き寝入り状態で意識を失った。
その時の記憶が曖昧だったけど、どうやら私は隼人の腕の中でかなりの時間眠っていたらしい。連日連夜隼人を探していて睡眠不足だったせいだろう。
目が覚めたとき、ベッド横で携帯をいじっている隼人の姿を発見し、私はまた大泣きした。
そして、隼人は、心配かけて悪かった、と小さく呟いた。
止まっていた涙がまた溢れ出した。そんな私に隼人は、罰が悪そうに、心の整理をしたいからあともう少しここにいさせてくれと頭を下げた。
私は、大泣きしながら、どれだけでもいていいから、と隼人に抱きついていた。
それから隼人は、数日程私の部屋にいて、パパさんと静香さんと彰人君の待つ家へと帰っていった。