私の片想い事情 【完】

家の前で中々入れないでウロウロしていた隼人を、買い物帰りの静香さんが見つけ、「ただいま」とはにかむ義理の息子を、これでもかと言わんばかりに抱きしめ、殴り倒したそうだ。


外で繰り広げられる騒動に彰人君があわてて止めなければ、隼人は病院送り出ったかも、と彰人君が言っていた。


静香さんがそんな母親らしいことをしたのはその時だけ。でもその愛情たっぷりのパンチが隼人の心に染みたんだと思う。


その後は、パパさんが弁護士を立てて、綾子さんを去勢し、無理だと悟った綾子さんは隼人を諦めた。


それは呆気ないくらいに潔く、もう一度隼人の前に現れた綾子さんは、


「水泳のインストラクターなんてワーキングプアもいいとこ。バカよね、大きな会社一つ手に入るのに。真治さんの会社なんてちっぽけなものよ」


そう言って、高笑いしながら去っていった。


まるで嵐のような人だった。


隼人は未だに綾子さんのことを許してないし、憎んでいる。


でも、今になってふと思うけど、綾子さんはただ、隼人に会いに来ただけなんじゃないかなって。


だって、パパさんも静香さんもそう簡単に隼人を手放すとも思えないし、隼人も納得するはずがない。


旦那さんの先が長くないってわかって心細くなったのかな、って思った。


それを隼人に言うとことはないけどね。




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