私の片想い事情 【完】
「みなみ、今日は元気だなー」
やけに今日は機嫌のいいマネージャーが、さっきから私に構ってくる。
「はい。地方予選も今週末だし、気合入れていきますね」
「今週は特に子供たちの体調管理と精神面に気を付けてやってくれ。保護者のリクリエーションとDVD講義もあるから大変だと思うが、頑張れよ」
「はい」
「そう言えば、お前もJO予選前は急にお腹が痛くなったり、大変だったよな?」
「いつの話をしているんですか?」
「あの頃のみなみはかわいかった」
そう言って私の頭をガシガシと撫でてくる。
「もう、マネージャー、子ども扱いはやめてください」
そう、私は、小学・中学と、まだ外見んだけはさわやか講師だったこの鬼マネージャーに徹底的にしごかれたんだ。
それは、厳しいなんてものじゃなく、JO予選前なんて、予選会に落ちることより、ベストタイムが出なかったら、この鬼マネージャーの鬼特訓が待っているという恐怖に、お腹が痛くなり、立眩みがしたり、と現実逃避モードだったのだ。
今の子供たちはラッキーだ。そんなスパルタコーチは、もういない。
時々、この鬼マネージャーがプールに入って指導するときがあるが、私は、一気に過去の記憶がフラッシュバックし、生徒に戻ったような錯覚を覚え、生徒と一緒になって大きな声で返事をしている。
今ではずいぶんと優しくなったな~などと呑気なことを考えていたら、鬼マネージャーがとんでもないことを言い出した。