私の片想い事情 【完】
「高橋さん、それは先ほど説明した通り、今身体が成長期の陽介君を無理させるより、ゆっくり見守った方がいいと判断しました。陽介君のタイムも標準記録に届いていませんし、今の彼に、選手コースに移る必要性はないです」
マネージャーは毅然とした態度で言い切る。
高橋君のお父さんは、タイムのことを持ち出され、言葉に詰まっているようだった。
本当は、そんなひどいことを高橋君に聞かせたくなかった。
彼自身、選手コースに行きたかったのだと思う。
拳をぐっと握りしめ俯く高橋君に、私はオロオロするばかりで何一つ気の利いたことが言えなかった。
「ご理解していただけましたか?私たちは、子ども一人一人の成長、能力、体力、そしてメンタルな部分を総じて判断しています。無理だと言っているわけではありません。今の陽介君には、まだ早いだけです」
マネージャーがこれだけはっきり伝えても、高橋君のお父さんは諦めなかった。
「でも、選手コースに移れば記録が伸びる可能性だってあるじゃないですか?」
「高橋さん、だから―――」
マネージャーが、やれやれと言った面持で更に説明しようとしたとき、高橋君がお父さんの腕をぐいっとひっぱった。