私の片想い事情 【完】
そして―――
予感はあった。
高2のバレンタイン。
雪がしんしんと降る中、家の前で、頬を染め、震える手で渡されたピンク色の包み。
中身は手作りだとすぐに分かった。
さぁ、どうしてやろうか、こいつを。
処女を抱くのは面倒くさい。
しかも、俺のタイプでもない。
簡単に振るのも詰まらないしな、そんなことを考えていると、何も言わない俺に不安を感じたのか、みなみが真っ直に俺を見つめ、心の声を吐き出した。
「隼人が好きなの。どうしようもなく好きなの」
どうして彼女はそんな真っ直ぐに俺を見つめるんだろう?
その瞳に俺はどう映っている?
発する言葉は、色々と考えていた。
思いっきり振ってやろう、とも思った。
でも、俺の口から洩れた言葉は、『義理だろ?』そんなひと言だった。
ひどい言葉を投げつけ、自分とみなみに逃げ道を作った自分に驚いた。
これで、お前も諦めるだろう、という思いと、もしかしたら、諦めないかもしれないという期待。
みなみの瞳は、羞恥と悲しみに揺れ、大きな黒玉が一気に涙の膜で覆われた。
それでも、俺をじっと見つめ続ける彼女の意思の強い目に、心臓がドクリと鳴った。
女々しく泣くかと思ったのに―――
「バカじゃないの!?義理なわけないでしょ、本命よ!このスケコマシっ!」
涙をこらえながら、綺麗にラッピングされたピンクの包みを俺に投げつけ、みなみは走り去っていった。
俺は、家の前でただポカンと口を開けて立っていた。
しばらしくしてこみ上げてくる笑い。
俺は、久しぶりに声を上げて笑った。
スケコマシって・・・死語だろ?
面白い、試してやろう。
好奇心からだったと思う。
みなみがこれからどんな態度で接してくるのか、どこまでその純粋無垢ぶりを発揮できるか見てやろう。
蔑みとも期待とも取れない感情が、初めて俺の心に巣食った。