白猫チロと私の願い。【短編】
「あぁ。バスが来たみたい。おばあちゃん、あれに乗っていかなきゃならないんだよ。」

「バス?」

私は目の端ににじんだ涙をおばあさんに気づかれないようにそっと片手で拭った。


あぁ…そうか。

ここはバス停のベンチだった。

おばあさんが立ち上がるのと同時に、バスがゆっくりと停まって乗車口の扉が開いた。

私も慌てて立ち上がった。

「おばあさん、具合はもう大丈夫なんですか?」
「ありがとうねぇ。もう大丈夫。大丈夫。」

そう言いながら、おばあさんはバスに乗り込み、タラップに立止まると私の方に向き直ってジックリ私の顔を見た。


ん?


と、私が首を傾けると、

あのひとなつっこい笑顔でバイバイと手をゆっくりふった。

そして、おばあさんは、ちょっと真剣なまなざしに変わると、

「ありがとう。助けてくださって本当にありがとう。」

と頭を深々と下げた。

なんだかかしこまったその様子に私は慌てて、

「いやいや。やめて下さいよ。そんなお礼なんてとんでもない。こちらこそ具合悪いおばあさんに、いろいろ話しちゃって何かゴメンなさい。」

と謝った。


おばあさんは、ゆっくりと頭をあげると、

「おばあちゃん、お嬢ちゃんと話ができて本当によかったよ。楽しかったぁ。幸せだったぁ。ありがとうねぇ。」

そう言ったおばあさんのまなざしはとても優しかった。

「さよならねぇ。」

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