白猫チロと私の願い。【短編】
確かに。

いくら何でも猫のチロと人間のおばあさんとを見間違えるなんて、あり得ない。

でも、
昨日私がここに一緒にいたのは、おばあさんだったはずだ。


どういうこと?

「具合の悪いおばあさんを助けて、ここで少し話した後、バスで帰るおばあさんを見送って私は帰ったんだけど…」

私が独り言のようにボソボソと言っていると、おばさんが声を大にして言った。

「バスで帰る?ホラ、やっぱり愛ちゃん思い違いしてるのよ。愛ちゃんが座ってる姿を見る、ほんの5分くらい前にバスは1本出てばかりだったもの。おばちゃんね、店で買い物した八百屋の奥さん見送ったから、よーく覚えてるよ。八百屋の奥さんに聞いてみたっていいよ。愛ちゃんも知ってのとおり、このバス停は20分に1本しか来ないんだから、あり得ない話だよね。」

………。

おばちゃんの声は大きかったけど、なんだか遠くの方から聞こえているような感覚だった。

私は、おばちゃんの顔を見ないまま言った。

「おばちゃん、昨日、ホントに、チロと私が一緒にここにいるとこ、見たの…?」

私は、あり得ない現実とあってほしい幻とに頭を巡らせた。

おばちゃんは、更には怪訝な顔をしはじめて、

「そぉよぉ。百歩譲ってチロちゃんじゃなかったとしても、愛ちゃんと猫が一緒にいたのは確か…」

と言ったところで言葉を区切り、何かを思い付いたように、

「あぁ、そうだ!」

と、私にここで待ってるよう言って、駆け足で店へ戻って行った。


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